ロンドンの、船上の鍼灸師の日記

2012年から客船で鍼師として働いていましたが、2017年からロンドンで治療家として働いています。治療のこと、クルーズのこと。色々綴っていこうと思います。ウェブサイトはこちら。https://www.junjapaneseacupunctureandshiatsuclinic.com/

炎症に対して徒手療法は何が出来て何ができないんだろう

長年頻発している膀胱炎が抗生剤を使わずによくなった症例がありました。

炎症って手技で止められるのか。そんな疑問が湧いて書き始めました。


40代女性会社員

主訴:寒い時期になると酒さが出る。また、左腕がだるくなる

*酒さ:顔面紅潮,毛細血管拡張,紅斑,丘疹,および膿疱と重症例でみられる鼻瘤を特徴とする慢性炎症性疾患

https://www.msdmanuals.com/ja-jp/プロフェッショナル/14-皮膚疾患/ざ瘡および関連疾患/酒さ


所見

左の上腹部がとても張っており、消化器系のトラブル(特に胃)が左腕の血流低下を引き起こし、だるさに繋がっているのではないかと推測。また、下腹部を触ったところ独特のしこり、強張りがあり(感覚的なものなので言葉にしずらいです)膀胱炎を患われたことがあるかを確認したところ、若い時から頻繁にあり今も膀胱の調子が悪いという回答がある。

抗生剤を飲むことからそれが胃の環境を悪化させ、胃の機能が落ちることで左上腹部の張りに繋がり、左腕のだるさに繋がったのではないだろうか。

上記の状況を考慮し、上腹部の張りを改善させていくことを治療の軸とした。


施術内容

マニュピレーション: 胃及び膀胱のマッサージ

使用穴:合谷、四瀆、上巨虚、陰谷、曲泉など


治療前は左腕にハリツヤがなかったが、治療後はそれが改善していた。また胃と横隔膜との間に隙間がなく張り付いていたのが、柔軟性が出ていたので終了。


2回目(1週間後)

腕のだるさと酒さは改善しており喜んでおられたが、それ以上に膀胱炎が抗生剤を使わずに済みそうだというぐらい下腹部の調子がいいそうで、喜んでいただく。

詳しく話を伺ってみると、尿に血が混じることも頻繁にあるそうでそれが改善傾向にあるとのこと。(さらっと言っておられたことからも、膀胱炎が日常茶飯事であることがわかる)


施術内容

マニュピレーション:下腹部は柔軟性が出ていたのでより深い層を狙っていった。また、直接は関係しないが間接的効果を考えて生殖器へ栄養する陰部大腿神経へもアプローチ。

使用穴:基本同じ。


3ー4回目:基本同上

以上。

 


考察

元々の主訴である酒さと腕のダルさもさることながら、昔からのものなので改善すると(恐らく)諦めていた膀胱炎とが両方よくなり、満足されておられるようで良かった。

この両者の共通点は「炎症」である。

つまり、炎症が身体に起きている反応という意味では酒さも膀胱炎も同じで、根っこにある炎症の改善を目指せば両方よくなるのは当たり前と言えば当たり前だなと思った。

 


一方で炎症というのがこんなに簡単によくなるのかという疑問も湧いた。

膀胱炎を調べたところ、急性膀胱炎は主に大腸菌からなり、抗生剤を用いて治す。でも膀胱炎の全てが菌によるものから来るわけではなく、例えば機能的な原因による膀胱炎(もしくは膀胱炎のような症状と感じられるもの)もあり、それは徒手療法で改善させられるんだなと思った。

 


膀胱炎の機能的症状ってなんだろうと思い、調べてみた。

頻尿:1時間~2時間ごとの排尿。多い患者は1日30回以上トイレに行く。
残尿感:排尿直後に尿を出したりない感じに囚われる。
尿意頻拍:尿は出ないと理解しているが、常に尿意が襲う。
排尿痛:排尿の終末時・直後に尿道から奥にかけて痛みが走る。
下腹部痛:恥骨部を中心として重い痛みや激痛が走る。
外陰部痛:陰部から肛門にかけて重い痛みやキリでえぐるような痛みが走る。
腰痛・背部痛:腰から背部にかけて重い痛みがある。
下肢の不快感:大腿部(太もも)の内側や足の裏に痛みやしびれ感がある。
尿失禁  など

 

参照

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/急性膀胱炎

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/非細菌性慢性膀胱炎

(慢性膀胱炎のみの記載は見つからず)

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/神経因性膀胱

 

機能的な膀胱炎が起きる原因は、ウィキペディアに膀胱を支配する脊髄中枢(胸椎10番~仙骨4番)の過敏さだとありました。過敏になってしまう原因の具体例としては


1)細菌性膀胱炎に頻繁になることで膀胱を支配する神経が過敏に反応してしまうようになる。

2)膀胱炎の炎症による癒着、虫垂炎など手術による癒着、出産などによる癒着で膀胱へ繋がっている神経が圧迫などを起こすことで活動が過剰低下/興奮

3)自律神経の乱れが膀胱へ繋がる運動/知覚神経にも影響を及ぼし過剰低下/興奮に繋がる


などを思いつきます。(読まれた方で他にも原因を思いつかれる方は教えていただければ嬉しいです)

原因の1ー3によって、症状の1ー9が起きることになります。

この患者さんのポイントは「炎症」だと書きました。ウィキペディアの情報に列挙された症状だけを信じれば、炎症は細菌が起こしたものであり、神経の機能不全によって生じることはない。もちろんそうだと思いますし、血尿が症状に記載されていないのもそのせいでしょう。(炎症の結果として血尿が起きるため)

ただ、神経の機能不全によって炎症が起きやすくなるとは言えそうです(例:排尿をコントロールする運動神経が弱くなることで実際に尿道に尿が残り、菌に感染しやすくなる)。

そしてその炎症が血尿を起こすのであれば、膀胱に繋がる機能不全を治すことで血尿を改善させることもできることになります。

若い頃から膀胱炎を繰り返す人は、細菌性によるものと機能不全によるものとが混在しているというのが本当のところなんだろうなと個人的には思います。

この方の場合、酒さも炎症が原因で起きる症状ですが、それが改善したことから全身の炎症を引き起こしていた要因の中で神経の機能不全の側面が強い症例だったんだなと考えます。


癒着を外からの手技で本当に引き剥がすことができるのか。それは正直わかりません。でも、癒着によって巻き込まれた腹膜を剥がして剥がされた周囲の組織に栄養を行き渡らせられることはできるんじゃないかなとは、以前鶏を絞めて解剖した時に生に近い筋膜を見た経験から言えます。

*参考ブログ

https://acupuncturistontheship.hatenablog.com/entry/2018/07/27/135256

https://acupuncturistontheship.hatenablog.com/entry/2018/08/06/134201

 

 

大腸菌を即座に退散!させることは閻魔大王でもないし私にはできませんが笑、機能的な損傷なら改善させることで様々な症状に対応できるんじゃないかなと改めて考えました。

まら、抗生剤と徒手療法とを組み合わせることで繰り返してしまう膀胱炎ももしかしたら止められることができるのかもしれないと思います。

 


薬や手術を用いずに何ができて何が出来ないのか。

冷静に考えて治療できる人間になりたいです。

 

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小便小僧は膀胱炎になるのかな@ベルギー

 

#膀胱炎 #炎症 #鍼灸 #酒さ