ロンドンの、船上の鍼灸師の日記

2012年から客船で鍼師として働いていましたが、2017年からロンドンで治療家として働いています。治療のこと、クルーズのこと。色々綴っていこうと思います。ウェブサイトはこちら。https://www.junjapaneseacupunctureandshiatsuclinic.com/

自営業へ向かって

先日、来年1月末をもって今のクリニックをやめるというか、正社員という立場から自営業者としての契約に切り替えるようにクリニックに伝えました。

 

子供ができると色々なことが変わります。住む場所、生活する費用などなど。

結婚して1人が2人になった時は住む場所が安くなったり食費が1人分の時より多く作れるのでトータルで安くなるなどがありましたが、そうはいきません。僕ら夫婦へ全くもって依存する存在ができたわけですから。

 

そうである場合、何かを変えない限り、お金という観点だけで考えれば自分たちが諸々を我慢する以外に方法はありません。だって、消費だけが増えるので。。。

お金は入る量が増えるか出ていく量が減らない限り貯まりません。減らすことの方が思いつきやすく実行しやすいですが、心が貧しくなってしまうことがあります。ならば、入る量を増やす方が楽しいなと僕は考えました。

 

日本に居た時に違和感を感じていたことの一つが、「年収300万(今は200万と言われてるとかどうとか)時代を生き抜くために」なんていうフレーズです。年収300万で生き抜こうという前提自体がくやしくないですか??

バブルの時に比べると成長率が低くなり、いけいけどんどん!な時代ではないからこそ、こういったフレーズが出てきたのかもしれません。でも、そこに引きづられて僕が生きていかないといけない時代まで生き方や価値観を規定されることにある種の憤りを感じます。

 

色々な準備をしていかないといけませんが、子供が本当にお金がかかる時までにある程度安定できるようにしないと。

 

知り合いの人がブログで書いていました。

 

『「お金持ちですね〜。」と言われると、恐縮な姿勢になる方。

「そんなことないです。」と否定する方。いらっしゃいます。

 でも、本当は胸張って「努力して、お金持ちになったんです。」と言い切っていいんですよ』

 ガーナの日記(https://heymykidz.hatenablog.com/entry/2019/07/07/022924)より。

 

 

そう言えるように、努力しよう。 

 

 

 

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 こんな感じで慢心しませんように笑

 

自己紹介、プロフィール、連絡先

名前: 吉村 潤

出身地:兵庫県神戸市

資格:鍼灸師あん摩マッサージ指圧師

趣味: 美術鑑賞及びコレクション、クライミング

連絡先: 2000yosimura@gmail.com

ウェブサイト:

https://2000yosimura.wixsite.comjunjapaneseclinic

 

プロフィール:

神戸大学国際文化学部卒業後、某大手重工業メーカーに入社。

上司との関係に悩み、鬱状態になっていた時に鍼灸と出会い鍼灸師になることを決意。

関西医療学園東洋医療学科を卒業後、クルーズ船に鍼師として乗船。Royal Caribbean, Silversea, Holland Americaのクルーズ船にて勤務し、カリブ海、ヨーロッパ、南米周遊、南極などを巡る。

2017年より縁あってロンドンで鍼師、あん摩マッサージ指圧師として働く。

 

治療(特に痛み)に対する考え:

痛みに対して僕がいつも考えているのは「痛みは結果であって原因ではない。」ということです。

原因を取り除かない限り、痛みはその場ではよくなってもまた痛くなってしまうことが多いです。そもそも、もし痛みのある場所が原因であれば、そこにアプローチさえすればよくなるはずです。そしてそうであれば、世の中に五万と治療法が存在する説明がつきません。

そうならないと言うことは、違うところに原因を求めなければならないのではないでしょうか。

 

 

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身体のバランスが変わっていく。身体の捻れが戻っていく過程を体験する。

2週間に一度来て頂いている患者さんがいます。

始めはお酒を飲むと頭痛が出て、何をやってもうまく取れないということで来院されました。

色々なことをストレスで片付けるのは簡単ですが、構造的にどうして頭痛が取れないのか色々考えてアプローチすることはできます。

というより、治療というのは「治療家の持っている尺度にその方の状態を当てはめてみる」ということだと思っています。映画の「メッセージ」で、言語学者が地球外生命体の発していた言葉を理解するように、患者さんから発せられている情報からどうして今苦しんでおられることが起きているのかを理解する作業が治療だと思っています。

 

右目の裏に頭痛が出るということで右側に注目していたら、構造を見ると頭から首にかけて捻れていて右→左へのラセン構造が身体の癖としてありました。(専門的に言うと、アナトミートレインでいうスパイラルラインにあたります。)ということで、左の脇へアプローチしたら頭痛が改善していきました。

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参照:アナトミートレイン

 

それが安定し始めると僕が患者さんの左腰が気になり始めました。話を伺っていると、左腰が不安定な感じがずっとしていて骨盤に腰をはめる癖があるとのこと。(これも先程出てきたスパイラルラインの影響によると考えています)そのために以前やっていたランニングもやらなくなっらしい。

ということで、左の下腹部へ内臓アプローチ及び左足が安定するように処置を施して今回に至ります。

 

今回は右の首裏が重いという訴え。コリと言うよりはむくみに近い状態でした。

左の腰はと言うと、施術後ずっとお腹が重だるかったらしい(2週間経った今でも少しある)のですが、だるさが軽減してくると今まで使えなかった部分が使えるようになってきたとのこと。例えば側屈した時に使えていなかった部分も曲げられるようになったり、呼吸した時に吸えてない部分があったことがわかったとか。

 色々見ていったところ、右の小胸筋という鎖骨の下にある筋肉が非常に硬くなっており、これが原因となり今回の症状を引き起こしたようです。

これはスパイラルラインの影響というよりは、スパイラルラインが元に戻る中で身体が根本から安定しようとするために生じたものと考えます。

*根本からの安定というのは、上半身で生じる癖や捻れが下半身に負荷のない範囲で伝わっていくことです。

 

次の来院時に身体のバランスはどうなっているのか。

楽しみです。

 

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治療メモ 治療の礎として

1) 人は見えていないところがある

右側の坐骨神経痛及び脛骨沿いに歩行時に痛み。右足親指にしびれ。

視覚を6方向で左右の目をそれぞれ確認(右の上横下、左の上横下)したところ、右目で左横が見えていない(指鼻試験)。つまり、左横を見るときに、右下肢全体に体重を乗せて観てしまう(視覚の補正)クセが今回の症状を作ったのか。(実際、右足首は外反して扁平足気味に)

その場合、いくら左右の脚の長さや右の足首のバランスを整えても元に戻ってしまう気がする。

もしくは、足首のバランスを整え、右足が踏み込めるようになれば平衡感覚が戻って、視覚補正も直るのか。

 

2) 鍼をするしないか、細い太いを使うかの基準。身体に隙間があるか

一年前に治療した時はあまり気にってもらってなかった患者さんを久しぶりに診たら次は指名してくださった。この違いは何なのか。

1年前に比べて、鍼をする人としない人の線引きが上手くなったのかもしれない。経験値を得ることで、この身体には僕の鍼のやり方が合う合わないの基準ができつつある。

それは「身体に鍼をする隙間があるかどうか。」だと思う。

 

どれだけここに鍼を打ちたいなと思っても、打てる隙間がなければ打たれる側は痛いだけ。それなら違うところに鍼をする事で、隙間を作りそこに後で鍼をする方がいい気がする。もしくは、手技で全体を緩めて鍼の隙間を作るのも手。

 

3) 身体の部分が求める層と全体が求める層

マッサージをしていると肩のこの部分は強い刺激で来てほしいとか身体から情報を受けそれに応えているなと思う。

その肩や腰などの部分部分からの圧の要求とは別に、身体全体として身体を包むこの層に刺激をして欲しいという要求を感じることがある。

その時には、最後に仰向きでその層へ刺激を固定させる。初めはなんだこれはと思う患者さんもいるが、徐々に落ち着いてその刺激を受け容れてくれることが多い。

また、こちらが患者さんからの強烈な眠気を受けている時はその方の脳が急激に休まろうとしているのでは。その後に一次呼吸が始まり落ち着くことが多い気がする。

 

 

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出産を治療で助けられた実感と「子供が在る 」感触と 。生と死の無色。

先週無事に子供が生まれました。

 

朝6時半に陣痛が来て、15時8分に出産。8時間半かかった初産は悪くはない時間のようです。

ずっとそばにいましたが、24時間以上かかった妊婦さんもいる中で割に苦しくなく産まれたように思います。

もちろん彼女は本当に痛かったと言っていましたが、自分の髪の毛が抜けるほど強く握ったり、普通では考えられないような声で叫んだりもありませんでした。

 

彼女自身もお産を振り返って、「(僕の)治療とヨガのお蔭で短時間に出産できたと思う」と言ってくれました。

前回にも書いたように、いかに大きくなったお腹のせいで下腹部・太ももの内側に伝えられなくなった力を伝えて力みやすいように、施術を通してバランスを変えるかという視点は正しいと思うし、妻のお産で実感を得ました。

(大声を出すということは、声を出して空気を押すことで子宮に力を伝えることです。強くマッサージする時に壁を押すことで、患者さんに力を伝えるやり方に近い。それがなかったということは、声を出さなくても力を伝えることができたからだと感じています。)

 

 

産まれてから1週間経ちましたが、朝起きて子供を抱っこした時に、僕の脳と体が震えてしまうのが「この子は1週間前に、9ヶ月前には地球上には存在していなかった」ということです。

それはお気に入りのものや服を買って自分の棚にあるのをにんまりしながら見てしまうのとは全く別の感触で、まさしく死とは対極にあるもののような気がしています。

死とは昨日まであったものがなくなってしまうもので、この世に存在しないということの無色さが僕にはあります。その無色さに近いものができたての生にもあり、まだこの世に馴染めていない感じが2870グラムからは感じられます。

 

この感触を7歳の子供を持つ患者さんに伝えると、「7年経ってもその感触は消えないよ。子供が大きくなる時にいつもそう感じるよ。」と言われました。

 

死が無色が無に馴染んていくものなら、生は無色が有に馴染んでいくものなのだろう。

 

この感触は一生忘れないよ。

 

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子供が生まれる時に鍼でできること。いかに痛みなく子供を産みやすくできるか。

お題「どうしても言いたい!」

 

子供が今月中旬に生まれます。妻のお腹はとても大きくなり、今は最後の最後だからなのか、左右に拡がり下に詰まっていっているように思います。

 

イギリス、特にロンドンは世界の民族といっても過言ではないくらい様々な人種が混ざりあっています。そのためなのか、私たちの赤ちゃんはイギリスの基準で体重が小さいと言われ続け、3週間に1度のペースでエコーによる検診がありました。(イギリスでは、順調に育っている赤ちゃんの場合、確か2回しかエコーでの検査がなく、親が不安になるほど汗)

37週の検診でも、骨の長さから推察される体重がイギリスにおける胎児の体重グラフでは基準以下であるという診断が下り、様々なリスクを考慮して40週で陣痛誘発剤を打って子供を出そうと医者に言われました。ちなみに、僕の子供は日本における胎児の体重のグラフでは基準以下ではなく、アジア人を考慮した場合に下回るそうです。ヨーロッパ人基準だともっと下回るのは言わずもがな。

妻は誘発剤に反対で、39週に有料のクリニック(イギリスでは医療は全て無料なのです)でエコーを取って胎児の状態をみようかという話になっています。

 

と前置きがながくなりましたが、ということで37週から自然に子供が生まれるように、以前にも増して僕が妻を治療するようになりました。37ー42週がいわゆる自然分娩とされる期間に相当し、40週が目安ですが、37週でも何も問題がありません。

元々陣痛が来たら鍼で産みやすくするようにサポートしようとは考えていて、使うツボもアイデアがありました。

どうすれば産みやすいかと考えた時に、要は子宮ないし下腹部、大腿骨の内側に自分の力を伝えやすくすればいいだけだと思うのです。

 

妊婦さんはお腹が大きくなると、ペンギンのような歩き方をされると言われます。つまり、足を外側に大きく捻って歩きます。それにより、足の外側で歩くようになってしまいます。両腕もお腹につられて、脚と同じように外側に捻った状態で歩きがちです。

体幹の筋肉が弱いと、そういう歩き方に慣れてしまった妊婦さんは出産時に身体の中心、しかも普段より下の重心に力を入れることは中々難しいです。

 

その例として妊婦になって足がつりやすくなることが挙げられます。

妻は妊娠してから足がつりやすくなりましたが、それには2つの要因があると思います。

 

1) グルテンや乳製品などを代表とした身体に負荷がかかるとされるものの摂りすぎで、血流不全が起きる。

2) お腹が大きくなることで腰がうまく使えないため、脛以下でバランスを取ろうとし、脛以下の血流が悪くなる、筋肉が硬くなる。

 

1が2に及ぼす影響もあり、1を改善させることもとても大切です。

ただ、動きの考察から動かせていないところを探す整動鍼を軸とした鍼をする僕としては、2は得意とするところです。

 

早速、股関節から足の先までがスムーズに力が伝わるよう調整したところ、足がつらなくなり、また、歩く時に陣痛のような痛み(彼女曰く)が来るようになったとポジティブな意味で言っています。

もちろん、下肢がスムーズに力が伝わるようにするだけでなく、外側に捻れた上肢も調整して、上半身の重みが骨盤に伝わるようにもしました。

彼女は歯のバランスが悪く他にも色々調整しなければいけませんが、足がつらなくなるのと産みやすい状態に持っていくのとは相関関係があると僕は感じています。

 

出産間近で誘発剤や帝王切開をしたくないという方がおられれば、鍼を受けてみられてはいかがでしょうか?

薬に頼らなくてもできることってきっとあります。

 

 

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悩む前に相談してみよう。

 

身体の畑を耕す

 治療をどういう形で進めていくか。

それは患者さんがどういう治療を求めていくかによるのだと思います。

 

例えば、ギックリ腰や寝違えの時に来られる方は、痛い時にだけ来てそれ以外は来られない。

とても凝ったなぁと感じた時に来られる方もいれば、定期的に来ることで自分のメンテナンスを常にされておられる方もいます。

 

その患者さんの身体に対する価値観や自分のお財布状況などなど、諸々でどういう治療を求めるかが決まるのだと思います。

 

ある患者さんに言われて自分のやり方に気づかせてもらったのですが、僕のやり方は畑の耕し方でいうと焼き畑に近いのかなということです。

 

痛みの除去を目的に来られた方の場合、どういう形であれ痛みが取れれば結果が得られたということになりますが、内科的疾患の場合、その指標が得にくいことがあります。

舌や脈、腹などでもって治療者側が改善がみられたということで治療を終え、それを複数回重ねていくことで、内科的疾患の状態が改善され、治療の効果があったと患者さんの方が納得する。

そして、その効果に対してお金などの投資に見合わないとなれば患者さんが来なくなる。

 

大和整體という手技が日本にあり、そのセミナーに何度か参加させて頂いた時に代表の方が「私たちは派手さはない地味な技で施術します。数々の手技が一回の施術で大きな変化を出すものを目指すなら、私たちは大きな変化が出てもまた戻ってしまう技を目指すのではなく、毎回少しずつでしかないかもしれないが確実に変化を出す施術を目指す。」と仰っておられました。」

例えて言うなら、格闘技で一発KOを目指すのではなく、ローキックやボディで確実に攻めていくようなものだと。僕はこの考え方が好きで、あまりこういうことを謳う施術法ってないなと思います。

彼らはこうすればこうよくなるという図式があり、脈のように主観で判断するのではなく、患者さんもその変化に小さいながらも気づいていけることでさまざまな疾患に対応すると言うことでした。

これは僕は整動鍼にも通じていくところがあって、治療において相互が納得しながら進めていくことは可能じゃないかと考えています。

 

例え施術家の判断で脈がよくなったと判断しても、患者さんが納得していなかったり、よくなった脈がすぐ戻り状態が中々改善しないこともあります。

焼き畑に戻りますが、患者さんの体力を加味していけそうだなと思えば、僕は割に内科疾患をメインにされておられる方でも肩や腰のコリをまずきっちりとっていきます。

そこからでないと、良くなる土台が作れないように感じるからです。

 

畑を耕すのに、丁寧に手作業でやっていけばいつか畑は耕されるのかもしれませんが、まず畑に生えた雑草などをばっと取り払ってから作物を植える方が、早く畑から植物が芽を出すように思うのです。

 

患者さんとの会話を通して、自分の治療スタイルや好みを知ることって結構あります。

面白い気づきでした。

 

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