ロンドンの、船上の鍼灸師の日記

2012年から客船で鍼師として働いていましたが、2017年からロンドンで治療家として働いています。治療のこと、クルーズのこと。色々綴っていこうと思います。ウェブサイトはこちら。https://www.junjapaneseacupunctureandshiatsuclinic.com/

「ツボがある本当の意味」刊行に寄せて。整動鍼との出会い

鍼灸師になって1年目に僕はクルーズ船で働き始めました。

3年間の学生生活で鍼灸学や解剖学、生理学などの基礎を修了して国家試験をパスし、晴れて人前で鍼灸師あん摩マッサージ指圧師として名乗れるようになって8ヶ月後の12月。

僕はカリフォルニアのロングビーチというところで行われたクルーズ船に乗る鍼師のための研修を終えて、ニューヨーク経由でカリブ海に浮かぶプエルト・リコに向かいました。

 

その時点で僕は整動鍼を知りませんでした。

鍼灸師になる前から頼み込んで研修に行かせてもらっていた先生は漢方薬と東洋はりという脈診をベースに鍼治療を行なっておられた方で、あとは中医学をベースにされておられた先生のもとで僕は勉強をしていました。また、自分なりに北辰会の本などを読んでもおり、それらが治療の軸となっていました。

 

クルーズ船という場所は陸とは違います。例えば、1週間という期間の中で何かしらの結果を出さないといけません。しかも、一回150ドル。1ドル110円として16,500円ですね。50分で。しかも、なんなら同時に二つのベッドを回します。

 

その中で僕が学生時代と合わせて3年8ヶ月学んでいたことは、正直にいうと歯が立ちませんでした。僕の勉強期間が短く、未熟だったことは認めます。英語もタジタジでしたし。

それでも自分なりに脈や舌、お腹を確認しつつ弁証論治を立てて自信があったものの、「なんとなく良くなった気がする。」という反応が多かった。

「なんとなく」って、どこまで患者さんは僕の治療に納得して150ドルも払ってくれたのかなと、ずっと罪悪感を抱えていました。

 

ある鍼灸師の方は、痛みが取れなかったとしたら、痛みが来る前に来なければならない。だから、1日2回、毎日通えば痛みが取れると説得していたと聞きました。

僕はそれにどうしても納得がいきませんでした。最低でも3ー5回である程度痛みが取れないようなら、患者さんではなく僕に落ち度があると、鍼灸師1年目ながらに勝手に思っていました。

船で稼ごうと思えば、前者のような考え方をする必要があると思います。

その患者さんと会うことはほぼ一生を通じてありませんし、1週間という期間の中でいかにその患者さんからお金をいただくかという視点で物事を考えなければならないからです。そういう意味では、僕はクルーズに向いている鍼師ではありませんでした。

 

プエルト・リコでのクルーズは1週間のものが多く、新しいクルーズが始まるたびにマネージャーは鍼師、美容師、マッサージ師など各クルーに割り当てられた目標金額を前にして叱責します。もちろん、僕は中々達成できませんでした。苦い思い出です。。。

 

達成できなくてもいいので、自分で納得のいく治療をしたいなと思う中で、治療の情報に飢えるようになりました。スーツケース2つしか船には持ち込めないため、持っていける本は非常に限られます。

 

前置きが長くなりましたが、そこで出会ったのが整動鍼(当時の古武術鍼法)です。

 当時は栗原先生の書かれたブログの一部に先生の身体に対するアプローチが載っていました。港に着いた時にネットカフェに立ち寄り、数ヶ月分自分のパソコンにコピペをして船で読み漁るということをしていました。

船にいるので、もちろんセミナーには参加できません。どこをどう刺せば身体にどういう変化を起こせるのかなど具体的なツボはその時点で知りませんでしたが、そういう身体の見方ができるんだという尺度を得たことは自分にとって大きな自信になりました。

例えていうなら、「メッセージ」という映画で、宇宙人が何を人類に伝えたかったのかを言語学者が理解した時のような感動というか、ハッとした感覚です。

メッセージ (映画) - Wikipedia

 

船で整動鍼に出会ってから5年ほど立ちますが、「なんとなく良くなった。」から、「あー、良くなりました!」と言う声が患者さんから少しずつ増えるようになりました。

 

 栗原先生ご自身が、バルセロナでお会いした時に、「こういう考えをしている人がいるなら僕が出会いたかった。」ということを確か仰っておられました。

僕はこうして先生の考えや、先生の考えに基づくツボの取り方を学ばせてもらっているだけですが、先生が何もないところから生み出すために費やされた時間というのは膨大なものだったのであろうと思うばかりです。

 

 本の刊行おめでとうございます。

「理論しか書かれてなくて、実際のツボなどの情報や臨床のことが書かれていない。」というコメントをされた知り合いの鍼灸師がおられました。

 

でも僕は思うんです。

どういう考え方で施術をするのかというバックボーンを理解することは、ツボを理解するより大切な側面もあるんじゃないかと。それは経絡の後ろに臓象論や陰陽五行思想があるように。

その背景があってのツボや使い方なわけですし、ただツボを知るというのは、ウェブサイトの記事を読むにあたってタイトルだけ見て中身を読まずにわかった気がするような現象に似ている気がします。

DVDも出るとのことなので、これと合わせて知れればいいのではないでしょうか。

  

滅多に人は褒めない僕ですが汗、以上、宣伝という名の応援でした。

 

 またよろしくお願いします。

 

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