ロンドンの、船上の鍼灸師の日記

2012年から客船で鍼師として働いていましたが、2017年からロンドンで治療家として働いています。治療のこと、クルーズのこと。色々綴っていこうと思います。ウェブサイトはこちら。https://www.junjapaneseacupunctureandshiatsuclinic.com/

ハントされた動物を捌く〜自給自足の友人のもとで〜

今週のお題「ゲームの思い出」

イギリスでは猟で仕留めた動物の肉を「ゲームミート」よ呼ぶので、この記事を書くことにしました。

 

先日まで自給自足をする友人の元で1週間ほど居候をしていました。

その中では色々なことがったのですが、思いついた時に、ポツポツと書いていこうと思います。

一思い出の1つは動物を捌いたことでした。

初日に皮なめ師をしている友人の友人にたまたま出会い、彼が知り合いにもらった鹿をもらってきたということで、僕の希望で捌くのをお手伝いさせていただきました。

 

鹿は植物の新芽だけを食べるらしく、農業を営む方々にとってはとても頭を悩ませる動物だそうで、自治体は鹿の耳を役所に持っていけば駆除料として幾らかのお金がもらえるそうです。そのまま鹿をすてるわけにもいかないため、皮なめ師の彼のところに回ってきたとのこと。

 

僕はかねがね、肉をいただく限りは、1度は殺めて動物が肉になるという過程をみないとなぁと思っていました。そうしないと有り難みが全然わかない。

その残酷な感じはどろっとしてまして、感覚的な表現で申し訳ないのですが、僕がクライミングで危険とわかりながらも外岩や崖に挑戦したかった時の衝動って、その身体に起きるどろっとしたものを体験したいからだと思っています。リストカットをして安心したい人って、そういう感覚を求めてるからなんじゃないかなと思ったりします。

また、生きた体に触れることを生業とする身にとって、生きたものが死に変わるというのはやはり、言葉でなく実感として感じておきたいというのもありました。

 

それで初日から有難いことに鹿を捌かせもらう手伝いをすることになりました。

あいにくの雨の中、まず驚いたのは動物が死んでしまうともう物体になってしまうということでした。

死後硬直なんてのがサスペンスドラマとかで使われますが、本当に重い。しかも、同じ重さの石や物体を持つときよりもなぜか重い気がします。あれは元々命がないものと、命・魂が抜けてしまうからという差なのか。よくわかりません。

 

話を戻すと、鹿を捌くのにまず、肛門の方から刃物をいれ、首の付け根の方にやる。皮がめくれる。

次にお腹に対して垂直に出ている下肢を折り、下肢を横にやります。つまり、鹿の背骨側に下肢を押し付け、大腿骨と骨盤を分離させます。そして、後脚だけを彼に切り分けてもらって、僕は脚をさらに細かく肉ごとに切り分けました。

スーパーなどで売っている肉(イギリスは塊で売っていることもあり、薄切りはない)を包丁で捌いたことはありますが、それよりもすごく切り分けにくい。

筋膜は勝手に想像していた以上に、身体の組織に張り巡らされていました。解剖生理の本などで「筋繊維の周りにそれを束ねる膜があり、その束ねられた筋肉を大きな単位で束ねる膜があり、例えば上腕二頭筋という筋肉が出来上がる。」という説明がありますが、まさしくその通りです。そのネットワークはとても緻密で、何層もある薄い霧という膜を切り分けていってようやく筋線維が出てきました。

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 @トートラ標準解剖生理学より 

 

実感として僕らは筋肉と骨でできているような感覚をどうしてももってしまいますが、それを支える裏方の感覚・システムが存在してこそ、その実感しやすい実感が機能できるのだと思います。

その時は、自分の手際の悪さもあり、それに没頭していたところ、皮なめ師の彼はほとんどさばきおわり、皮と骨と肉とが分離されていた。

最後に今回とった肉を七輪で焼きながら、酒盛り。

こんなに出来立てのお肉を食べたのは初めてで、とても美味しかった。

 

当たり前の話だが、動物の皮の中には筋肉があって、究極的に言えば、どんな動物のものだって食べられます。(戦時中はどんなものも食べたという話だから。)

でも、スーパーにはその皮や生命がのぞかれた、いわばあまり重みのないお肉がずらりと並んでいる。それは、言い方は悪いが他にいい言い方が思いつかなかったので書くと、死後硬直になぜか重いと感じた肉というよりは、はじめから命がなかったような肉のように感じてしまいます。

 

僕らが食べ物を美味しいと感じる理由の1つは、その食べ物・素材が持つ重さや上に書いた「どろっと」さなのではないのだろうか。

実は、その後居候生活の中で、鶏を殺めて捌くという経験もしました。それはまた今後書きます。

 

この経験が出来て、本当にありがたかったな。

 

 

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ロッコでは牛やヤギの頭部をこのように煮込んで食べます@カサブランカ